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 ヴィンセントは迷っていた。
 一度は心を決めたはずだった。昔愛した――今でも愛している女性が生んだ、そして自分の手で育てたこともある子供の命を絶つこと。それがどんな意味かくらい、重々承知しているはずだった。だから、神羅屋敷での眠りを捨て、悪夢に閉じこもることを捨て、自ら銃を取ったのだ。
 それなのに、彼女に会って以来、その決心がぐらつき始めている。
 セフィロスを殺すことが、本当に自分の贖罪と成しえるのか。また新たに罪を重ねるだけではないのか。彼女は、息子の死を望んでいるのだろうか、と。
 決戦を目前にして、未だに迷っている。
 だからこそ、クラウドが「戦う意味を確かめて欲しい」と告げたとき、真っ先にこの場所が頭に浮かんだ。
 彼女――ルクレツィアとの再会の場所。すぐにシドに頼んで潜水艦を借り、一人でここまで来たのだが。
「やはりもういない……か」
 誰もいない祠を見回し、ヴィンセントは軽く嘆息した。
 再び訪れた滝の裏側のその場所に、ルクレツィアの姿はなかった。予想していたことではあったので、落胆はしない。彼の嘘を信じたのか否かは分からないが、これ以上は彼女の問題だ。ただ少しだけ、空っぽの洞窟に切ないような、淋しいような思いを感じる。
 自然にできたらしい、幾つも連なった鍾乳洞の柱。その間を縫うように取り付けられた、小さな机と寝床。そして床に積まれた数々の本や紙の束。
 彼女は何を思いながらここにいたのだろうかと思いめぐらしながら彷徨わせていた視線が、ふとある一点でとまった。
 祠の最も奥まったところに置かれた、今は主なき椅子。そこに、細長い包みが置かれていた。
 何の気なしにヴィンセントは近づいて包みを手に取った。するすると包装をはがしていく。そして、息を呑んだ。
「これは……!」
 中から現れたのは、一丁のライフル銃だった。銃身がとても長く、銃口近くに、炎を象ったような小さな装飾がついている。かつて20数年も昔に彼が愛用し、そしてとうに失くしたと思っていた愛銃――デスペナルティ。
 どうして彼女が持っていたのか。どうして今ここに置かれているのか。
 湧き上がる疑問を胸に抱いたまま、ヴィンセントは震える手で銃を取り上げた。俯いて目を瞑り、かたく、かたく、額にその銃身を押し当てる。
 冷たい鉄の塊から、微かに血と硝煙の匂いが漂った気がした。
「ルクレツィア……」
 ――これが、君の答えか。
 口の中で呟き、ゆっくりと顔を上げる。
 心は、もう決まっていた。






 お蔵出し。北の大空洞突入前夜のヴィンセント。あ、うちでこんなにまともな幽霊書くの初めてかも。
 突入前夜、それぞれ様々な思いがあったんだろうなと妄想しています。そして間違いなく、ヴィンさんはニブルヘイムかルクレツィアのところに行ったに違いない。


 どうしても耐えきれず、やらかしてしまいました恒例のサイト改装。涼しげでいいですよね。これで後三カ月は頑張れる(三か月経ったらまた改装する気ですか)。あ、ちゃんとウィルスチェックはしましたよ!(いや、この時期に改装するなんて馬鹿にもホドがあるなあ自分とか思わないこともないんですけれどもっ)
 今日明日辺りまでがとりあえず一つの山場なので、それを何とかできたら更新に専念します。プチ連載も待ってるし。
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